2023.01.11
約15種類のカレイが獲れる福島県で、特に冬期に重宝されるのがナメタガレイ(標準和名:ババガレイ)だ。年間通して獲れる大型のカレイだが、寒い時期は身が厚くなり脂が乗ってくる。産卵期前で子持ちのナメタガレイは、特に高級魚として扱われている。“滑多(ナメタ)”と呼ばれる通り、ぬめりの多い魚だ。
ナメタガレイは、刺身や焼魚でも食べられるが、煮付けにするのが主流だ。いわき駅からほど近い『和風料理 やなぎ』でも、ナメタガレイの煮付けは冬の人気メニュー。この煮付けを目当てに訪れるお客さんもいるという。店主の松崎公洋さんに、常磐もののナメタガレイの魅力を聞いた。
『和風料理 やなぎ』は、いわき市で約50年続く老舗店だ。常磐ものにこだわり「あそこに行けば地元の魚を食べられる」と言われるような店にしたい、という想いで店を続けてきた。
松崎さんいわく、ナメタガレイといえば「しっとりした身」。癖のない白身は、味がよく染み込み味わい深い。煮付けとの相性は抜群で、「煮付け魚の王様」と呼ばれるほど。常磐もののナメタガレイは、冬の12月から3月ごろまでが1番美味しいそう。
松崎さんにナメタガレイのなにが魅力かを問うと、「1番好きなのはエンガワ」と答えが。エンガワは、背ビレや尾ビレの付け根部分。ヒレを動かすための筋肉で、刺身で食べるときはコリコリした食感が特徴だ。煮付けにすると「天然のトロッととろける食感」になる。ヒレの骨にくっついているため、吸うように食べるのがコツだという。「エンガワはフグの白子や、タラのキク(白子)のようにナメタガレイで1番注目してもらいたいポイントで、表現できないくらい美味しい」と松崎さん。
東北地方では、年末や正月にナメタガレイの煮付けを食べる文化がある。子持ちガレイを食べることで“子孫繁栄”の意味があるとされる縁起物で、この時期は相場が上がるという。
取材中(12月初旬)に訪れた地元の常連客も、お目当てはナメタガレイの煮付け。暖簾をくぐると「今日は“ナメタ”あるよ」と声をかけられるほどのファンで、「冬が来ると必ず食べたくなる」そう。今シーズン初のナメタガレイの煮付けに、「お酒が3倍美味しくなる」とご満悦な様子。
「若い世代はあまり煮付けを食べないかもしれないけど、私にとって和食の基本は煮魚。そこに君臨するのが“ナメタ”で、これを食べたら考えが変わるくらい美味しいですよ」と、お客さんも“ナメタ”愛を語ってくれた。
『やなぎ』は、これまでバブル崩壊や東日本大震災を乗り越え、約50年にわたりこの場所で店を続けてきた。現在はコロナ禍に加え、常連客の高齢化や居酒屋チェーンの脅威を感じることもある。しかし、時代が変わっても、旬の常磐ものを食べられる店として「地元料理でもてなす」ことを全うしたいと語っていた。
◎住所:福島県いわき市平字田町14-1 いわき第一ビル1F
◎営業時間:17時~22時
◎定休日:日曜(日・月連休の場合は月曜休)