COLUMNコラム

市場や飲食店も注目!常磐ものに秘められた可能性

2023.03.31

常磐の海産物を仕分けしている写真

栄養豊富な潮目で育った常磐ものは、魚種が多く質も良いことから全国的に高い評価を得ている。

豊洲市場や飲食店など、関係各所からの注目度も高い。

豊洲市場で競り人を務める魚のプロ、そして福島から直接魚を仕入れる料理人に、

それぞれの視点から見た「常磐ものの魅力」について話を聞いた。

 

プロが認める常磐ものの品質

福島の海は「非常に良い状態の魚が獲れる場所」と話す卸売業者「大都魚類株式会社」の河野智和さん
河野智和さん。競り人も務める魚のプロで、毎日たくさんの活魚を扱っている

京・豊洲市場は、全国から厳選された魚介類が集まる日本一大きな市場だ。世界的に見ても最大規模の市場で、連日約1,400トンもの魚が運び込まれて競りや相対販売により取引されている。福島からも毎日魚介類が届き、卸売業者・仲卸業者を介して飲食店や鮮魚店に販売されていく。

市場内に本社を構える卸売業者「大都魚類株式会社」の活魚課で働く河野智和さんによると、福島はエサが豊富なこともあり「非常に良い状態の魚が獲れる場所」。同社でも、季節に応じ旬の常磐ものを多数扱っている。

取材を行った3月上旬、豊洲市場に運ばれてきたのは、活きの良いヒラメ・アイナメ・マコガレイの3種。ヒラメは特に冬の常磐ものを代表する魚で、身が厚く評価も高い。他の時季だと、初夏のマコガレイやイシガレイなどカレイ類の評価も高いという。河野さんいわく「震災前からカレイ類の評価は日本一」。砂地でエサが多い海域はほかにもあるが、福島の漁場は特に広い。カレイ類は、現在も高値で取引されているという。

競りの前日に福島から豊洲市場に届けられる活魚
届いた魚は、競りに向けて計量し、産地や種類ごとに仕分けられる
仲卸業者は、競りに向けて魚の状態をチェックする。身の厚さや固さ、傷が付いていないかを確認
「豊洲で働く人にとって、常磐ものが“良い”ことは常識」とされていると語ってくださった競り中の河野さん
午前5時ごろ、活魚の競りを進行する河野さん。一人前になるまで3~4年はかかるそう

常磐ものの中でも、2年程前から急激に評価を上げているのが真夏に獲れるスズキ。他産地の4~5倍の値段で取引されるほど品質が良いそうで、「常磐もののスズキは、正直(他の産地のスズキとは)別の魚のよう」と河野さん。まったく別物と言えるほど、脂乗りや身質が優れているという。

河野さんは「豊洲で働く人にとって、常磐ものが“良い”ことは常識」と語る。漁師や出荷業者の扱いも丁寧だそうで、福島から豊洲まで品質を保ったまま届くのも評価のポイントだ。日本中から高品質の活魚が集まる豊洲市場でも、常磐ものの需要は高い。

●大都魚類株式会社

住所:東京都江東区豊洲6-6-2

HP:https://www.daitogyorui.co.jp/

 

相馬から直送!常磐ものの詰め合わせ

福島県相馬市から直接仕入れるほど常磐ものに信頼を寄せているのが、銀座・京橋エリアにあるイタリア料理店「バンカレッラ ジョイア」だ。この店には、相馬の水産仲卸売業者「飯塚商店」から毎週魚介の詰め合わせが届く。魚種を指定することは無く、中身は完全にお任せだという。料理人から見て、常磐もののなにが魅力なのだろうか。代表の田澤弘さん・総料理長の酒井裕二さんに話を聞いた。 「バンカレッラ ジョイア」で常磐ものを使うようになったのは、3年ほど前。それまでは豊洲市場に買い付けに行っていたが、現在は店で扱う魚はほぼすべて常磐もの。以前は魚料理の注文があまり入らなかったが、常磐ものに変えてから「魚料理が出るようになった」と代表の田澤さん。直送だからこそ値段をおさえて提供することができており、「安くて美味しいことがお客さんにも伝わっているんだと思う」と語る。

常磐の海産物に信頼を寄せる銀座・京橋エリアにある「バンカレッラ ジョイア」の田澤弘さん
代表・田澤弘さん。直接仕入れることで「“幻のエビ”と呼ばれるような珍しいブドウエビなども手に入る」
総料理長・酒井裕二さん。常磐ものはお客さんからも評判が良く、前菜からメインまで魚料理を選ぶ人もいるそう

総料理長の酒井さんは、常磐ものを「鮮度が良いし味も美味しい」と評価。なにが届くか分からないので、自分では選ばないであろう魚も送られてくる。「それをどう調理して美味しく出すかを考えるのが楽しい」そう。

「バンカレッラ ジョイア」と常磐ものとの出会いは、2017年頃にさかのぼる。福島県の企業と取引をした際に常磐ものの魚介類の話を聞き、興味を持った田澤さんは現地に赴いた。漁港の視察もしたが、当時は試験操業を始めて5年目。直接現地の人と話したことで「使ってみたい」という気持ちが高まり、「出荷できるようになったら送ってください」と伝えたのが始まりだった。その後、日常的な水揚げが始まり、初めて店に届いたのは大きなヒラメ。「ぴかぴか光っていて、見た瞬間に間違いないと思った」と田澤さん。食べてみると感動するほどの美味しさで、それを機に直接仕入れるようになったという。

お店に届く常磐ものは、ヒラメやアナゴ、ノドグロ(アカムツ)、サワラ、ミル貝、ヤリイカ、タコ、メガニ(メスのズワイガニ)など様々。魚種によっては生きた状態で届くものもあり、「総じて質が良い」。出荷前に丁寧に処理をしてくれるため、新鮮な身質を保ったまま店に届くという。

鮮度が高い福島の魚が届いた様子
届くまでなにが届くか分からない。どう調理しようか迷うのも楽しく、「料理人冥利に尽きる」と田澤さん
ヒラメのカルパッチョ。ほとんどのお客さんが頼むので、すぐ売り切れてしまうそう

特に人気のメニューは、ヒラメのカルパッチョだ。酒井さんいわく、常磐もののヒラメは「身が締まっていて味が濃い」。たんぱくな魚だと食材に負けてしまいバランスを取るのが難しいが、「オリーブオイルにも負けないほど濃い味わい」という。

また、お店の定番となったのがメバルのアクアパッツァだ。味付けはシンプルで、アサリ・トマト・オリーブ・塩・水のみ。旨味の強いメバルそのものの味を堪能できる。

メバルのアクアパッツァ。シンプルな味付けだからこそ「メバルが美味しいほど美味しくなる料理」と酒井さん
ヤリイカのフリット。柔らかく、噛むとイカの甘みが感じられる

なにが届くか分からないからこそ、新しい発見もある。以前アナゴが届いた際は、イタリアのウナギ料理をヒントに調理した。アンチョビやケッパーとロール状にしたアナゴを蒸し焼きにしてみたところ、想定外に美味しかったという。自分たちで仕入れていたときは「アナゴは使ったことはない」。お任せだからこそ、料理のバリエーションが増えた。 直接仕入れるようになってから、従業員を全員連れて相馬に行ったこともあるという。実際に市場を見て、「活気にびっくりした」と田澤さん。また、送られてきた魚でどんな料理を作ったのか仕入れ先に写真を送ることもある。田澤さんが言うには、直接仕入れる1番のメリットは「顔を知っている人から買っているという安心・安全」。現地とコミュニケーションを取りながら、お互いにとってウィンウィンになる関係性を構築しているようだ。

 

●バンカレッラ ジョイア

住所:東京都中央区京橋3-3-12山京ビル2階

電話番号:03-3231-8588

(お問い合わせ時間13時〜22時)

定休日:日曜日・第2第4月曜日

HP:https://bancarella-gioia.owst.jp/