COLUMNコラム

福島に春を告げる味覚!プリプリ食感がたまらない高級魚シラウオ

2023.03.22

福島のおいしいシラウオの写真

常磐ものの春の味覚といえば、シラウオ(標準和名:イシカワシラウオ)だ。地元では「春告魚」と呼ばれており、「この魚が獲れると春が近づいてきた証拠」とされている。水揚げのピークは2月上旬~4月中旬で、全国的には高級食材としても知られている。しかし福島では家庭でも日常的に食べられているそうで、地域に根付いた魚だ。

福島のシラウオを水洗いしている様子
マル六佐藤水産にて、出荷の様子。丁寧に水洗い後、手作業でパックに詰められる

半透明で小さな姿をしているためシラスと混同されることもあるが、実際はまったく別の魚である。シラスは、カタクチイワシやマイワシの稚魚のこと。一方シラウオは、この姿が成魚だ。大きくても10㎝ほどで、刺身や天ぷら、唐揚げ、すまし汁などで食べることが多い。

相馬市にある「鮨はやし」では、水揚げ地だからこその新鮮さを活かした、様々なシラウオ料理を食べることができる。店主の林真弘さんに、常磐もののシラウオの魅力を聞いた。

新鮮なシラウオは半透明。鮮度が落ちると白っぽくなってくる

味が濃く、甘さと香りが強い常磐もののシラウオ

林真弘さん。東京で修業後、地元・相馬で「鮨はやし」を開いた

林さんによると、常磐もののシラウオは「味が濃く、甘さ・香りが強いのが特徴」。鮮度が良いと刺身はプリっとした食感があり、「上品でほろ苦く“大人の味”」だという。火を通すと苦みが抑えられ、甘味が増すため子供でも食べやすい。

「鮨はやし」では、全国から厳選した旬の食材を仕入れている。ただ、仕入れの際は「地物があるときは、なるべく地物を仕入れる」という考え方で選んでいるそう。東京など遠方からの来店も多いそうで、「遠方から来た方は、なるべく地物を食べたいですよね」と語る。

常磐ものの魅力は、その魚種の多さ。漁獲対象の魚介類は約200種あり、季節ごとに美味しい魚がある。春は「シラウオを食べて、時季を感じてほしい」と林さん。

福島の海で獲れた海産物を使った鮨
ランチの「にぎり(12貫)」。この日は、ケガニ・シラウオ・ヒラメの昆布締め・煮アナゴの4貫が常磐もの
シラウオの刺し身(黄身醤油)。芽ねぎと花を乗せ、見た目にも美しい

旬を迎える春時期、「鮨はやし」でもシラウオを使った様々なメニューが提供される。中でもシラウオの新鮮さを堪能できるのが、黄身醤油でいただく刺し身だ。噛むと、シラウオのプチプチとした食感・ほろ苦さ・黄身が混ざり合い、濃厚な香りが広がる。

シラウオの唐揚げも人気だ。油を高温にすることで、べたつかずカラッと揚がる。ふわっとした食感で、火を通すことでシラウオの甘みが分かりやすくなるそう。

シラウオの唐揚げ。粉を付けすぎないのがコツ
シラウオの江戸前鮨(シラウオのにぎり)の写真
シラウオのにぎり。エビのおぼろを挟むことで、酢飯の酸味をやわらげシラウオの味を引き立てる

そして「鮨はやし」の真骨頂である“江戸前鮨”の技術を堪能できるのが、にぎりだ。1貫に使う10匹ほどのシラウオを、まとめて酒蒸ししている。蒸す前にまとめるのは、熱が加わるとゼラチン質が溶け出すという性質を利用するためだ。林さんによると、シラウオに熱を加えるのは昔から伝わる技術だそう。「古くからある江戸前鮨の“仕事”」と語る。

常磐ものをもっと美味しく食べてもらいたい

「鮨はやし」がオープンしたのは、2020年10月。林さんは鮨店の2代目で、店を継ぐため上京して修行。「地元にない店を作りたい」という思いで、大衆向けだった先代とはコンセプトを変えた。

追求したのは、江戸前鮨ならではの技術だ。生魚を切って載せるシンプルなものではなく、〆たり炙ったり煮たりという“ひと仕事”を大切にしている。そして「本当に良い魚を使いたい」というこだわりから、地元にはあまりない高級鮨店のスタイルになった。林さんいわく、「鮨店は緊張して、背筋がキュッとなるくらいでちょうど良い」。銀座の高級店で食べるような、特別感のある時間を過ごせる場所にしたかったという。

内装には、宮大工のこだわりが詰まっている。木材はすべて国産で、暖簾をくぐると木の香りが漂ってくる

地元の方にとって、シラウオをはじめ、常磐ものは必ずしも珍しいわけではない。漁業関係者など、人によっては毎日のように常磐ものを食べている人もいる。だからこそ、全国から美味しい魚を集めるなか、常磐ものは特に工夫を凝らす。「地元の人がいつも食べている魚を、より美味しく食べてもらいたい」と努力を欠かさない。

お店には、地元だけでなく遠方からもお客さんが訪れるという。先代の教えや修行先で培った職人の技術、林さんの独創性、そしてこだわり抜かれた空間には、“わざわざ行きたい”と思わせる力がある。「鮨はやし」で、丁寧に仕上げられた江戸前鮨と向き合ってみては。

 

●鮨はやし

住所:福島県相馬市中村字塚田15

電話:0244-26-3104

営業:昼/11:30~14:00(L.O.13:30)、

夜/17:00~22:00(L.O.21:30)

※夜は完全予約制

定休日:月曜日、第2・第4火曜日

HP:https://www.sushi-hayashi.com/